地域包括ケアシステムの構成要素と利用するメリット、課題について
少子高齢化問題が叫ばれるようになってからずいぶんと時間が経ちますが、日本では一向に高齢者の介護に関する問題は解消されていません。
そこで、日本があらたに打ち出したのが、5つの構成要素から成り立つ「地域包括ケアシステム」という制度です。
国は2025年を目処に地域包括ケアシステムを構築できるように推進しており、それに伴いあなたの周りの介護環境も姿を変えていくかもしれません。
今回は、地域包括ケアシステムのメリットや課題について紹介していきましょう。
地域包括ケアシステムとは、高齢者が最期まで自分が住み慣れた地域で自立して生活できるように、必要となる各種支援・サービスの体制構築を目指すものです。
今までは、介護が必要になっても家族の手を借りながら自宅で生活をして最期を迎えたり、施設へ入居して最期を迎えたり、いくつか介護の選択肢がありました。
なぜ今になって「自分が住み慣れた地域で自立して生活できる」ことを目指すのでしょうか?
地域包括ケアシステムの推進には、間近に迫る「2025年問題」が大きく関係しています。
日本で年々少子高齢化が進んでいるということは、みなさんご存知でしょう。
そんな少子高齢化の大きな節目となるのが2025年なのです。
日本では1947年~1949年に第1次ベビーブームが訪れ、800万人ほどの子供が生まれました。
このたくさんの子供が2025年に75歳以上の後期高齢者になります。
これにより、日本の高齢化率は2025年で30%に到達すると考えられており、日本人の3人に1人が高齢者という時代がやってくるのです。
子供の出生率が低い状態で、今以上に高齢者が爆発的に増加すれば、病院や医師不足、認知症患者の急増、社会保障費の増大、要介護者数の増加、介護職員の不足など、さまざまな問題が発生します。
介護業界に絞って問題を端的に表すなら、従来の介護サービスだけでは今以上に高齢者を支えきれなくなっていくということです。
そこで、国は一人ひとりの住民が日常の生活範囲(30分あれば駆けつけられる程度の範囲内)の地域で自立した生活を送れるように、介護サービスをはじめとするさまざまな支援やサービスを一体的に提供するための地域包括ケアシステムという制度を推進しているのです。
✔日本では、後期高齢者が爆発的に増加する2025年問題が迫っている
✔現在の介護保険、医療保険だけで高齢者の生活を支えるのは難しくなっている
✔住み慣れた地域で自立した生活を送るための制度が地域包括ケアシステム
地域包括ケアシステムの概要はなんとなく理解いただけたでしょう。
次は、もう少し詳しく地域包括ケアシステムの構成要素と2つの「助け」について説明しましょう。
地域包括ケアシステムは以下の5つの構成要素から成り立っており、これらの関係は「植木鉢」に例えられています。
・医療、看護…葉
・介護、リハビリテーション…葉
・予防、保健…葉
・生活支援、福祉サービス…土
・すまいとすまい方…植木鉢
これまでは、高齢者を支えるために医療や看護、介護やリハビリテーショ、予防や保健といった「葉」に当たる部分に焦点を当てて、制度の改善などを図ってきました。
しかし、しっかりとした「土」、さらに土を支えるための「植木鉢」がないと葉っぱは十分に育ってくれません。
つまり、これからは植木鉢となる高齢者が地域で生活できる住まいを提供し、その住まいで安定した生活を送るための土となる生活支援や福祉サービスを充実させます。
そして、植木鉢と土という土台を整えて葉っぱとなる医療や看護、介護やリハビリテーション、予防や保健を連携させるのです。
地域包括ケアシステムは、5つの構成要素によって高齢者が住み慣れた地域で最期まで過ごせる環境を実現しようという試みだといえます。
さらに、地域包括ケアシステムという名の植木鉢が整ったら、「植木鉢の受け皿」として、本人や家族がこれから在宅での生活を選択すること、心構えをすることが重要となります。
社会福祉は、以下の4つの「助」を組み合わせることで成り立ってきました。
・自助…自分のことを自分で助けること。定期的な健康診断、かかりつけ医をもつなど。
・互助…住民同士で互い助け合うこと。町内会、自治会、ボランティアなど。
・共助…制度の上でともに助け合うこと。医療保健、介護保険、年金制度など。
・公助…国による社会福祉制度のこと。生活保護制度など。
高齢者が増加した日本では、医療保険や介護保険といった共助、生活保護制度などの公助による支援は費用、人材不足などさまざまな面で限界を迎えています。
そこで、地域包括ケアシステムでは「自助」と「互助」という2つの助けをよりレベルの高いものにする必要があると考えているのです。
つまり、定期的な健康診断やかかりつけ医による診断を受け、なるべく事前に病気を防いだり介護予防をして(自助)、周辺の住民同士で助け合う(互助)ことで医療保険や介護保険、社会福祉制度を極力利用しなくても自立した生活を送れる環境を整えていくというのが、地域包括ケアシステムのポイントでもあるのです。
✔地域包括ケアシステムは、医療、介護、予防、生活支援、住まいといった5つの構成要素から成り立つ
✔地域包括ケアシステムにおいて、「自助」「互助」による助け合いがより重要になる
✔植木鉢と土、その上で育つ葉っぱを用意することで住み慣れた地域での生活を実現する
地域包括ケアシステムによって「高齢者が住み慣れた地域で最期まで生活できる」ようになるのは大きなメリットですが、もう少し具体的なメリットを挙げていきましょう。
高齢者の生活には医療と介護が欠かせませんが、これまではそれぞれの分野が別々にサービスを提供している印象が強かったです。
しかし、地域包括ケアシステムにより医療と介護の連携が強くなれば、高齢者が自宅で生活をしやすい環境が整います。
ひとことで高齢者と言っても、介護度が高い高齢者、まだまだ元気な高齢者など状態は人によって違います。
地域包括ケアシステムでは、高齢者でも元気であるなら積極的に社会参加をしてもらう、元気な高齢者が支援を必要とする高齢者を支える、そんな形が期待されています。
社会参加というのは、言い換えれば他人と接したり、自分の居場所を作ることでもあり、高齢者が長い間元気に過ごすには社会参加の機会も重要なのです。
認知症を発症すると、深夜徘徊、介護をする家族の負担などから、自宅での生活は難しいのが現状です。
2025年には、約5人に1人が認知症になると予測されており、地域包括ケアシステムにおいても認知症の高齢者の生活環境を整えることは重要な課題となっています。
そのため、今後地域包括ケアシステムの構築が進むことで、今よりも地域内で認知症を支える体制が整い、認知症の方でも自宅で生活しやすくなることが期待されています。
これまでは国が主体となって介護保険サービスを充実させてきましたが、地域によって必要とする生活支援サービスは異なります。
地域包括ケアシステムの導入により、高齢者の生活環境が国ではなく地域の主導によって整えられることで、その地域で本当に必要な生活支援サービスが実現されやすくなると期待されています。
✔医療と介護の連携が密になり、介護を必要とする人でも自宅で生活をしやすくなる
✔地域包括ケアシステムにより地域で支え合う環境が構築され、認知症でも自宅で生活をしやすくなる
✔生活支援サービスの充実、社会参加の機会の増加によって自宅で生活をしやすくなる
今後の日本社会において地域包括ケアシステムは重要な存在となりますが、2025年問題を目前にして、まだまだ課題が多いのも事実です。
地域包括ケアシステムでは、医療、介護、各種サービスなどの連携が重要となります。
しかし、鍵となる医療と介護分野についてはまだまだ十分に連携できているとは言い難いです。
これまで、それぞれが独立した分野としてサービスを展開してきたわけですから、特に早朝、夜間、緊急時などの連携に課題が残ります。
仮に地域包括ケアシステムによって、高齢者の医療や介護を利用する頻度が減ったとしても、それでも医療業界、特に地方の医師不足、介護業界の慢性的な人手不足といった問題は解消されません。
あらゆる面で高齢者を支える人の数が不足しているのです。
これまでの介護保険や医療保険によるサービスは、国が一律に定めた基準に則って実施されていました。
しかし、地域包括ケアシステムでは各市町村が地域に合わせたケア環境を構築していきます。
そのため、人口バランス、環境構築に割ける財源など、さまざまな影響で地域間に大きな格差が生まれる可能性があります。
国は2025年に向けて地域包括ケアシステムを推進していますが、国民の間にはまだまだ地域包括ケアシステムが浸透していないのが実情でしょう。
そのため、介護を必要とする高齢者やその家族の「最期まで自宅で生活を続ける」という意識が低く、従来のように施設への入居を積極的に検討するケースも少なくありません。
地域包括ケアシステムでは、自助と互助がひとつのポイントとなります。
しかし、自助(定期的な健康診断やかかりつけ医による診断)のレベルを高めるには結局のところお金が必要であり、低所得者が増加している現状では自分の健康にお金をかけることも難しくなっています。
また、昔と比べて人間関係が希薄化しているため、互助のレベルを高めるのは一筋縄ではいきません。
地域が「定期的に健康診断を受けましょう!」「ご近所さんと助け合いましょう!」と呼びかけるだけでなく、具体的な自助と互助を実現できる取り組みを実施できるかが今後の課題でしょう。
✔地域包括ケアシステムの要である医療と介護の連携や、解消されない各業界の人材不足に課題あり
✔地域格差や地域包括ケアシステムの浸透具合に課題あり
✔地域包括ケアシステムを実現する上での「自助」「互助」を実現しにくい環境に課題あり
第一次ベビーブーム世代に生まれた人たちが、75歳以上の後期高齢者になる2025年を迎える頃には、介護、医療などさまざまな面で高齢者の生活に関する問題が浮上します。
そこで介護保険、医療保険ではカバーしきれなくなった高齢者の生活を支え、地域で最期まで生活してもらうことを目標として生み出されたのが地域包括ケアシステムです。
5つの構成要素と自助と互助によって地域包括ケアシステムが構築されれば、介護を必要とする高齢者や認知症を発症した高齢者でも、無理なく自宅で生活できるようになるかもしれません。
現実は課題も多い制度ですが、安易に「介護が必要になったら、施設に入らないと(入ってもらわないと)…。」と考えるのではなく、これからは「どうしたら自宅で生活し続けられるか?」ということも前向きに検討する時代に変わっていくかもしれません。
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